Coral

帰ってきたヒトラー上・下 /T・ヴェルメシュ


現代の諸問題を史上最大の悪人に説き伏せられるって最高の皮肉だとおもいます。


同じような歴史好きの後輩に借りました。ずっと読みたいなーと思っててかえてなかったんですけど、本当に助かりましたありがとう。


タイトル通りの、かのヒトラー総統が現代社会に舞い戻ってくる話。

飛んでも設定で、偽物でもなく物まね芸人でもなく本当の本物の総統がタイムスリップしてくる話なんですけど、時代が違うとこうも社会から切り離されるのかというほどに社会から浮く彼は、読者からすれば笑い話で、でもきっと総統本人は真剣そのものなんだろうと思うとそのギャップもだんだんと面白くなってきます。

最初の方はばからしいな~、とか思っていましたが読み進める内に、視点で描かれる総統の考え方に引き込まれている自分に気がつきます。


恐ろしいですね。

彼の一貫したその考え方の描写は、作者がよく彼の研究をしているんだと分からせるに十分なものでした。


どこで引き込まれる事に気づくかというと、パタンと本を閉じたとき。

ふと現実世界に帰ってきて、自分の頭が現実?に戻ってくるまでは総統に乗り移られたかのような錯覚でした。1番グッと引き込まれてしまったのは14章、ふたたび表舞台へ、のところですね。

彼の演説を思い起こさせるような、静まりかえる会場が容易に想像できる場面でした。

ホントに演説の天才だった事が分かるんですが、よく考えたらそれを文章で再現できる作者もただ者ではないのでは?という感想になりました笑


さらに、彼による現代社会への批判もまさに痛いところを突くというような物ばかりで、今まで疑問にすらならない点までつかれてしまったら、現代社会の抱える問題なんて政治で

隠されてんのかなってなりますよね笑

世界を破滅に追い込んだ悪人に社会の問題点を取り上げられるほど皮肉なことはないですよね。彼の作ろうとしていた世界の方が正しかったのではないかと言われているようでした。


下巻も読みました。

彼と一緒に、彼の犯罪を乗りこえた比較的幸福なこの世界を笑っているという事実に頭が覚めました。

彼の魅力的な部分、人として惹かれてしまう人格を上手く描きあげ、そうして第二次世界大戦の時のように彼に惹かれていく自分がいることに気づいた時、ハッとするのです。

結局、どれだけタブー視されて、ダメなんだよと言われても、また同じように彼について行ってしまうんだろうなと。

それだけの力が、引きつける力が彼にあったのだと、初めてしっかり理解したような気がしました。


ほんとに翻訳者様、作者様は素晴らしいなとも笑


読んで良かったです。貸してくれた後輩さんありがとう。

読んだ後に「っはぁー!!!」ってなります。笑






Sai

knowing is seeing.

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